穀雨とは二十四節気の1つで、清明の次、春の5番目にあたる節気です。「雨が百種の穀物を生じさせる時期」を意味し、太陽の位置を表す黄経で30度のときを言い、新暦では4月20日~21日頃になりますが年によって変わります。今年は4月20日になります。期間としての穀雨は4月20日~5月4日になります。穀雨を迎えると気温は急速に上昇し、寒気が訪れることはなく、雨が降る日も増えていきます。穀物を育てるには絶好の気候で「雨生百穀」(雨が百種の穀物を生じさせる)と言われ、ここから「穀雨」という言葉が生まれました。
春の節気は立春、雨水、啓蟄、春分、清明、穀雨となっており、穀雨は春の最期の節気です。日本の穀雨の七十二候では、川辺の葦が芽吹き、霜が降りることがなくなって苗が元気に育ち始め、牡丹の花が咲き、季節は春真っ盛り、ときに夏の気配を感じさせる頃です。中国の穀雨の七十二候は、河の浮き草が育ち、鳴く鳩が羽繕いをし、ヤツガシラ(鳥の名)が桑の木にとまる頃だそうです。牡丹は日本ではさほど珍重されませんが、中国では花の王様とか国の色、天の香りと呼ばれ、最も愛される花です。穀雨の頃に咲き誇るので「穀雨花」とも呼ばれます。清朝時代の怪談集「聊斎志異(りょうさいしい)」には牡丹が美女になって現れる「花妖」の話が出てきます。浜離宮の牡丹園などで美しく咲いた牡丹を見ると、高さは約1メートル、花の大きさは直径約20センチ。まさに小柄な美女でこの牡丹から美しい妖怪が空想されたことも頷けます。
二十四節気で雑節となっている「八十八夜」はちょうどこの穀雨の終わり、5月初めの頃です。立春から数えて八十八夜という意味で日本だけにある節気です。八十八は「米」という文字になることもあって農事の吉日ですが、「八十八夜の忘れ霜」という言葉にあるとおり、この季節は霜害にあうこともあり、注意喚起のための節気でもあります。また、この時期は茶摘みの季節。新茶がおいしく、八十八夜に摘んだお茶を飲むと長生きすると言われています。この時期の美味しいものとしては新ごぼうや草餅があります。ごぼうは中国では漢方薬の材料で食料ではありません。ごぼうは一見、泥にまみれた木の根っこのようでこれを食料として食べるのは日本人だけのようですが、きんぴらでもけんちん汁にしても美味しく、なぜ日本人以外は食べないのか不思議です。日本の草餅はよもぎから作りますが、中国ではよもぎは漢方薬の材料であると同時に厄除けの植物として用いられます。
清見というみかんをご存知ですか?みかんとオレンジの中間の特徴をもつのですが、清見も穀雨の頃に食べごろを迎えます。たけのこは種類にもよりますが、3~5月頃に最も多く出回ります。春から初夏にかけてはたけのこご飯がおいしい季節です。藤の花は4月下旬~5月上旬頃に咲きます。GWあたりで見頃を迎えるため、各地の藤の名所は多くの人で賑わいます。チューリップも様々な種類がありますが、主に4~5月に咲き、穀雨の頃が見頃になります。蓮華草は4月上旬~5月上旬に咲き、春の季語にもなっています。「山吹色」の山吹は4月に咲きます。ひなげしの花(虞美人草)も穀雨の頃に美しく咲く赤い花です。虞美人草とも呼ばれますが、これは「項羽と劉邦」の時代の虞美人と呼ばれた女性から名付けられました。清明は雪が降らなくなる時期、さらに穀雨となると霜が降りることもなくなります。冬服やストーブもいらなくなりますから、穀雨を目安に衣替えをしてみてはいかがでしょうか。