春の社日(春社)の日は、土の神や産土神(うぶすながみ)、農業に関連した神々を盛大に祀り立てる日です。春は稲の生育を祈願します。春社では、五穀豊穣を祈願して「五穀の種」を神前にお供えして本年の豊作を祈願します。社日の日は春と秋にありますが、いずれも一定しておらず、毎年、変動します。これは古来、社日の日が春分・秋分に最も近い十干(じっかん)の戊の日と定められているためであり、その基となっている春分・秋分の日も日が定まっていないからです。今年の春の社日の日は3月21日(木)です。
社日の日が定められたのは、中国が起源とされる陰陽五行説を参照したと考えられています。陰陽五行説で戊(つちのえ)の日は、「土」に該当する属性であり、「土の兄」と書かれます。五行説における「土の兄」とは、「茂」に通じ、陽気によって繁栄すると説かれています。つまり、戊の日とは、「草が盛んに生長する日」ということになり、これが春分と秋分の日から最も近い戊の日に定められたのです。
十干で取り上げられている、甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸、それぞれの文字は、元来、植物の生育の度合いを示したものだとされています。十干は甲から癸(みずのと)へと向かいながら10日で一巡します。社日の「社」とは、「土地の神」、「土神」、「国の神」を意味します。これに日を付すことで「土神に詣る日」、「土地神に詣る日」、「土神を祀る日」、「土地神を祀る日」と解釈されます。土地の神とは、産土神を指し、産土神とは、その人物がはじめて参拝した神社の神様のことであり、将来にわたってその人物を守護し続けるとされる神のことです。通例であれば、初参りなどは、地元の神社へ詣でるのが慣わしです。したがって産土神とは、自らが生まれた土地の守り神が相当します。
社日の日には古来、全国の神社で社日祭などの神事が行われたり、様々な催し物が行われたりもします。このように社日に土地神を盛大に祀ることによって、春の社日には春から秋の間の厄災を祓い、農作業が滞りなく行えるように祈願します。現在でも社日講といって、農村などで社日の日に特定の場所に参集して、全員で神々に祈りを捧げる風習は各地に残されています。お祈りが済んだ後、お供え物を全員でいただき、春の社日には、お供え物を食べることによって厄が祓われ、秋の収穫までの農作業が滞りなく行えるように体力をつけるとされます。このような社日の風習は中国から伝来したものと考えられており、中国では古来、社日の日は家族・親戚・友人・関係者が一堂に会し、全員で酒宴を交えた宴会をする日とされています。