春一番とは立春(2月4日頃)から春分(3月21日頃)までの間、その年に初めて吹く強い南風のことです。気象庁や地方の気象台が、それぞれの地域における春一番の定義を設けています。例えば気象庁の定義する、関東地方の春一番は、(1)立春から春分までの期間に限る。(2)日本海に低気圧がある。低気圧が発達すればより理想的である。(3)関東地方に強い南風が吹き昇温する。具体的には東京において、最大風速が風力5(風速8.0m/s)以上、風向はWSW~S~ESEで、前日より気温が高い。これらの条件に当てはまらなければ、春一番として認定されません。したがって、春一番が吹かなかった年もありました。しかしながら、東北地方ではこの条件を満たす風が吹いても「春一番」の発表はありません。理由は、東北地方の気候になじまないためです。東北地方では、暖かな南風が吹いても、その後、冬型の気圧配置になり、冬に逆戻りしたような寒さに戻ることが多いのです。つまり、春一番が吹いても、東北地方ではまだ冬が続いていて、春の到来にはならないのです。
春一番は、北日本と沖縄を除いた地域で発表されます。春一番を発表する地域においても、春一番が吹いた翌日から春になるわけではありません。むしろ、冬に逆戻りします。この現象を「寒の戻り」と呼んでいます。以降、強い南風が吹くたびにこれを繰り返し、少しずつ春へと向かっていくのですね。春一番の次に吹く風を「春二番」、その次に吹く風を「春三番」ということもあるそうです。ちなみに北海道では「春一番」の代わりに「雨一番」ということもあるのだとか。日本で春先に「三寒四温」になるのは、春の移動性高気圧と低気圧のため、春には高気圧と低気圧が交互に日本を通過します。早春に低気圧が日本を通ると、太平洋にある太平洋高気圧から温かい風が吹き込み暖かくなります。低気圧が去ると北のシベリア高気圧から冷たい空気が吹き込んで寒くなります。こうして寒い日と暖かい日が交互に現れます。
「三寒四温」は、3日ほど寒い日が続いた後に4日ほど温かい日が続く、この7日の周期で天候が変化し春に近づいていく、という春先の気象の状態を指す言葉として近年は春の訪れの際に使われていますが、実はこの言葉は冬の気候(秋の終わりから春先まで)を指し示す言葉なのです。もともとは、中国北部・朝鮮半島に顕著な現象で、この地域では冬にシベリア高気圧からの寒気が7日くらいの周期で強くなったり弱くなったりする現象だそうです。寒波は、北極付近の寒気がシベリアなどでたまると、かたまりになって放出されるのですが、この周期が中国北部や朝鮮半島では7日間くらいだそうです。日本で言えば、東北から北海道にあたるところでしょうか。しかし、日本には、日本海があり太平洋にも面しているので、中国北部や朝鮮半島のようにシベリア高気圧からの寒気の吹込みだけで気温や天気が決まりません。日本は世界でも天気予報が難しいとされる地域らしいのです。「三寒四温」は本来、冬の気候で、外国に多い現象です。しかし、今は日本の気候に合わせて2月から3月上旬、冬から春への季節の移り変わりの時期に使われるようになりました。
春一番がニュースになるのは、春のおとずれを知らせるためと思った方も多いと思いますが、実は違います。確かに季節のたよりという意味もありますが、災害への警戒といった意味も込められています。なぜなら春一番は、火災や洪水・海や山での遭難・鉄道事故など、様々な被害をもたらす恐れがあるからです。春一番が吹いてウキウキするのではなく、実は警戒しなくてはいけない風だったのです。春一番という言葉も、悲しい事故に由来しており、安政6年(1859年)2月13日、新暦でいうと3月17日に当たりますが、長崎県五島沖に漁へ出ていた漁師53名が、強い突風により遭難し、全員が帰らぬ人となってしまいました。事故以降、この地域では、春先の強い風のことを「春一」「春一番」と呼ぶようになったといいます。春一番の吹く平均日は東京で2月25日。今年は2月4日で昨年より18日早く、過去最も早い記録を更新しました。漁船の遭難といえば、春一番の頃が最も多いそうです。山の遭難になると、気温上昇による雪崩のためか、春二番や春三番がずっと多くなるようです。春一番や春二番を伴った低気圧が通過した後に、それまでの強い南風に代わって強い北西の風が吹くことも多いそうです。一時的に西高東低の気圧配置に戻るためです。特に北日本では春寒の北西の風が、雪を伴って吹き荒れる「春北風」と呼ばれる濃霧を伴うものが発生するので大変怖い存在なのです。今まではなんとなく「春の訪れ」くらいにしか思っていなかった方も、そういった危険があるということを認識してくださいね。