クリスマス

「日本の常識は、世界の非常識」と言われていますが、日本のクリスマスはその典型だと思います。日本では、キリスト教信者数は人口の1%程度と大変少ないにもかかわらず、キリスト教のお祝い事であるクリスマスが盛大に祝われるという不思議な国です。キリスト教、イスラム教や仏教など世界のメジャーな宗教にはそれぞれが持つ本当の意味や秩序があり、国際化のなかで日本も世界の常識を知り、宗教的なことに対する配慮を心がけるよう、公私にかかわらず十分に注意したいところです。一般的に言って、日本ではキリスト教の信仰とは全く無関係にクリスマスが祝われており、日本の大衆文化的な特性が現れていますが、身近に外国人がいる共生社会の昨今はこの点をより注意しなければならないと思います。

イエス・キリストの誕生を祝うクリスマスですが、1225日にイエスが生まれたということではありません。よく言われるのは、太陽神崇拝があった時代、ローマ暦で冬至にあたる1225日に太陽神の誕生が祝われていたことから、キリスト教の広がりとともに、神の子イエスの誕生をこの日に祝うようになったという説です。その後に定着したキリスト教の教会暦では、クリスマスからさかのぼって4つ前の日曜日からAdventが始まります。日本語では「待降節」と呼ばれますが、救い主イエス・キリストの誕生を待ち望み、クリスマスを準備するための期間で、このAdventの始まりにあわせてクリスマスツリーなどのデコレーションをするのが慣習になっています。アメリカでは11月第4木曜日にThanksgiving(感謝祭)が祝われるので、これがすぎるとすぐにAdventがやってきて一気にクリスマスモードに突入します。一方、日本では11月に入った途端にショッピングモールにクリスマスソングが流れたり、大きなクリスマスツリーが登場したりすることがあります。クリスマス商戦を早く開始したいという意図が見えますが、本場に比べるとかなり早い時期にクリスマスのライトアップイベントが催されることがあります。

クリスマスの飾り付けを早く始めるのを日本流だとすれば、片付けも早いのが日本流です。1225日が終わればすぐに飾り付けは一気に取り払われ、お正月用の飾り付けがされます。日本の文化的事情を考えれば当然の成り行きですが、本来、クリスマスシーズンは教会暦ではEpiphanyと呼ばれる16日まで続きます。このEpiphanyまでクリスマスの飾り付けがされているのが一般的です。そもそもクリスマスとは”Christ’s mass”(キリストのミサ)のことで、それが短縮されてChristmasとなりました。Xmasという書き方もありますが、このXはギリシャ語でChristのことでChristmasと同義です。日本では似たようなX’masという表記がされることがありますが、Xの後にアポストロフィーの記号()をつける書き方は正しくありません。英語圏のクリスチャンの友人や仕事相手にクリスマスカードを送るような場合は気をつけましょう。Christmasときちんと書くほうがいいでしょう。

“Merry Christmas!”は、イエスの誕生を喜び合う気持ちで「よいクリスマスを!」と伝えるための挨拶ですが、英語圏で国民の大半をキリスト教徒が占める時代にクリスチャン同士の挨拶に使われてきたものです。同じ英語圏でも現在のように異なる宗教や文化を持つ人たちが暮らしている社会では、公に「メリークリスマス」という挨拶をするのは控えるようになっています。ところが日本人は往々にしてクリスマスは宗教的行事だという意識に欠けていることもあって、あまり深く考えることなく誰に対しても「よいお年を」と同じように「メリークリスマス」という表現を使ってしまいがちです。移民が多く流入している欧州各国でイスラム過激派のテロが横行している昨今では、キリスト教信者でない人にクリスマスのお祝いを伝えるのはおかしいですし、キリスト教中心の世界観や習慣の押しつけとも捉えられ、相手に不快感を与えてしまうこともあります。ですから、英語圏では従来の”Merry Christmas”ではなく、”Happy holidays!”という表現が使われるようになっています。異なる外国文化のみならず、信じていない宗教のお祝い事までも違和感をもたずに取り入れて、なんでもレジャー化、ビジネス化してしまうのはどうなんだろうと思ってしまいます。これまで単一民族社会であった日本は、少子高齢化で外国人との共生が必至になっていく中で異なる宗教や文化を持つ人たちに配慮することがますます求められてくると思います。