「二百十日」(にひゃくとおか)は雑節のひとつ、立春(2月4日頃)から数えて210日目の日で、毎年9月1日頃にあたります。この頃は稲が開花する重要な時期ですが、農作物に甚大な影響を与える台風に見舞われることも多い時期です。そこで、過去の経験から、農家にとっては油断のならないこの日を厄日として戒めるようになりました。それは農家だけでなく、漁師にとっても出漁できるかどうかとともに、生死に関わる問題でもありました。また、「二百二十日(にひゃくはつか)」も同様の雑節で、旧暦8月1日の「八朔(はっさく)」、「二百十日」、「二百二十日」を農家の三大厄日としています。現在のように台風の予測ができなかった時代、人々はこの日を恐れて警戒し、風を鎮める祭りを行って収穫の無事を祈るようになりました。
農作物を守るために風を鎮めるための風祭りは全国各地に残っています。特に有名なのが富山市八尾町で行なわれる風祭り、越中八尾「おわら風の盆」で独特の風情が人気を呼び、小説や歌にも数多く登場しています。越中八尾「おわら風の盆」は、風を鎮める豊年祈願と盆踊りが融合し、娯楽のひとつとして親しまれてきたお祭りで、300年以上の歴史があります。坂の町・八尾の古い街並みに哀愁をおびた胡弓の音色が響き、「越中おわら節」にのせて、編笠をかぶった男女が踊り歩きます。誰もが楽しめる「豊年踊り」、優雅な「女踊り」、勇壮な「男踊り」があり、男女ペアで艷やかに踊ることもあります。また、鎌が風の力を衰えさせると信じられていたため、屋根の上や軒先に鎌を取り付けたり、竹竿の先に鎌を付けて立てたりする風習もあります。
昔からの厄日「二百十日」は単なる人の経験知だけではなく、近代の日本の自然災害とも深く結びついています。9月1日の防災の日は1923年9月1日に発生した関東大震災にちなんで1960年に制定されました。防災の日が制定される前年には、伊勢湾台風(死者・行方不明者およそ5100人、負傷者39000人)が襲来しています。これをきっかけに災害対策基本法が制定されました。関東大震災のときも、風の影響で火災が広がったそうです。この時期は台風被害の多い時期ですが、いついかなる時に異常気象による災害や震災に見舞われるか、現代科学のちからをもってしてもわかりません。この機に、非常持ち出し袋の点検や、家族との連絡方法、避難所、避難経路、家族との待ち合わせ場所などを是非、確認しておきましょう。